スティーブ・ジョブズ

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 1984年、アップル社の新製品発表会本番を40分後に控え、スティーブ・ジョブズマイケル・ファスベンダー)は部下のアンディ(マイケル・スタールバーグ)ともめている。今回ジョブズはどうしてもMacintoshに「ハロー」とあいさつさせたかったが、当の主役は沈黙したままだ。マーケティング担当者のジョアンナ(ケイト・ウィンスレット)は諦めるよう説得するが、しかし、すぐには対応できず・・・・・・!

 2011年に惜しまれつつ他界したアップル創業者の実像に、1984年のMacintosh、88年のNeXT Cube、98年のiMacという3回の製品発表会の舞台裏を描くことで迫ろうとするが。

 ジョブズは、発表前の控え室や通路、舞台を忙しく移動しながら、問題を本番前に解決しろと部下を脅し、同僚や元恋人と言い争い、側近のジョアンナに不満をぶちまける。緊迫した対話がいくつも連なり、やがて伝説的なプレゼンを迎えるまでを、「スラムドッグ$ミリオネア」のオスカー監督ダニー・ボイルが実録風カメラワークに若干の映像的ギミックを添えて描き出す。

 ウォルター・アイザックソンの原作は、ジョブズ本人ほか多くの関係者に取材した唯一の公式伝記だ。「ソーシャル・ネットワーク」でアカデミー賞脚色賞を受賞したアーロン・ソーキンは、ジョブズの生涯を網羅した伝記本のダイジェストを作るのではではなく、転機となった3度の発表会を抽出。そこに独自取材の情報も盛り込んだ会話劇を創作して、設定・対立・解決という三幕構成の定型に落とし込んだ。

 ソーキンの脚本は、起業家・経営者として成功と挫折、復活を駆け抜けたキャリアの激動期を語るのと同時に、元恋人クリスアンとの口論、その間に生まれた娘リサとの距離感を通じて、ジョブズが抱える矛盾や出自にまつわる葛藤にも切り込む。製品に美と洗練を追求する完璧主義者が、人として親としてみっともないほど未熟で不完全であり、成長を必要とした点を強調することで、普遍的なテーマへと導く。

 膨大な台詞でジョブズの生き様を凝縮する一方、思い切った省略も本作を際立たせるスタンスだ。革新的な製品が誕生する過程もなければ、有名なプレゼンの本番もない。物足りなく思うアップルやジョブズのファンも多いだろう。それでも、主題を語る上で不要な要素をそぎ落とす姿勢からは、ジョブズが傾倒したミニマリズムや禅に通じる、ソーキン流の粋(いき)を極める心意気が伝わってくる。

 基本的に話が多くて吹き替えの方が見やすいと感じたのは、私だけでしょうか?